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東京地方裁判所 昭和37年(モ)4054号 判決

判   決

東京都品川区北品川三丁目一九四番地

債権者

関高市

右訴訟代理人弁護士

青木定行

矢生倫司

中野慶治

同区北品川二丁目一六八番地

債務者

品川ダイハツ株式会社

右代表者代表取締役職務代行者

小田久蔵

右訴訟代理人弁護士

入江正男

椎原国隆

雨宮真也

同区北品川六丁目三四六番地

債務者

渡辺幸雄

ほか四名

右債務者五名訴訟代理人弁護士

小峰長三郎

柳田幸男

右債務者等が右債務権者を相手方として申立てた昭和三七年(モ)第四〇五四号同第七七二〇号職務執行停止仮処分異議事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、当裁判所が、債権者債務者間の昭和三七年(ヨ)第二〇〇八号職務執行停止仮処分申請事件につき、昭和三七年二月二二日なした仮処分決定を取消す。

二、債権者の本件仮処分申請を却下する。

三、訴訟費用は債権者の負担とする。

四、この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

一、当事者の求める裁判

(一)  債権者の申立

主文第一項記載の仮処分決定を認可する。

との判決を求める。

(二)  債務者の申立

主文第一、二項と同旨の判決を求める。

二、債権者の主張

(一)  昭和三七年二月二二日、主文第一項記載の仮処分申請事件につき、別紙目録記載の仮処分決定がなされた。

(二)  右仮処分決定は、正当であるから認可さるべきである。

即ち、

1  債権者は、債務者品川ダイハツ株式会社(以下、債務者会社という。)の株主である。

2  (取締役及び監査役の職務執行停止の仮処分について)

(1) 登記簿によれば、昭和三七年一月二六日、債務者会社の株主総会において、「池田友次郎、関登、斎藤吉治を取締役に選任する。有井兆彦、作田康雄を監査役に選任する。」旨の各決議がなされたことを前提とする取締役、監査役の就任の登記がある。

(2) しかしながら、右右決議は存在しない。

(3) 仮に存在するとすれば、右各決議は取消さるべきものである。

即ち、右各決議がなされた際、株主総会の定足数が満たされていない。

債務者会社の発行済株式の総数は、一二、〇〇〇株であり、右各決議がなされた際出席した株主の有する株式数は、二、八九〇株であつた。

従つて、右各決議がなされた方法は、商法第二三九条第一項に違反する。

(4) 債権者は、昭和三七年二月一二日、右株主総会決議不存在確認及び同決議取消の訴を提起したが、債務者会社及び債務者渡辺幸雄を除く債務者らは、債務者会社の取締役及び監査役であると称し、その職務を執行している。

3  (代表取締役の職務執行停止の仮処分について)

(1) 登記簿によれば、債務者渡辺幸雄は債務者会社の代表取締役である旨の登記がある。

(2) しかしながら、同人は、債務者会社の代表取締役ではない。

(3) 債権者は、昭和三七年二月一二日、代表取締役たる地位の不存在確認の訴を提起したが、債務者渡辺幸雄は、債務者会社の代表取締役であると称し、その職務を執行している。

三、債務者の答弁

(一)  債務者の主張(一)、を認める。

(二)  同(二)につき、

1  (二)の1を認める。

2  (二)の2に対し、

(1) 2の(1)を認め、2の(2)を否認する。

(債務者の主張―本件各決議の存在について)

本件各決議は、適法に存在する。

即ち、本件株主総会は、昭和三六年一二月二五日の取締役の決議に基き、同三七年一月一〇日、代表取締役関高市が招集通知を出し、総会当日、渡辺幸雄外一八名の株主(その所有株式数一〇、三四〇株)の出席を得て開催され、適法に本件各決議をした。

(2) 2の(3)のうち、発行済株式の総数を認め、出席株主の有する株式数及び、決議の際定足数が満たされていなかつたことを否認する。

(3) 2の(4)を認める。

3  (二)の3に対し、

(1) 3の(1)を認め、3の(2)を否認する。

(債務者の主張―渡辺幸雄の地位について)

昭和三七年一月二六日、債務者会社の取締役である渡辺幸雄、浜田福雄、池田友次郎、関登、斎藤吉治の出席を得て開催された取締役会において、渡辺幸雄を債務者会社の代表取締役とする旨の決議がなされた。

(2) 3の(3)を認める。

四、債務者の主張に対する債権者の応答

(一)  (決議の存在についての主張に対する応答)

1  債務者の主張事実を否認する。

2  (予備的主張その一―延期通知の主張)

仮に、招集通知が適法であるとしても、債権者は、昭和三七年一月一九日、各株主に対し、本件総会を次期開催日を定めることなく延期する旨の通知を出したから、右総会は延期された。

3  (予備的主張その二―延期決議の主張)

仮に、右延期通知が無効であるか、又は、後記五の(二)において債務者が主張するように、総会当日撤回されたものであるとしても、本件総会開会後、総会延期の決議がなされたので、右総会は延期された。

(二)  (渡辺幸雄の地位についての主張に対する応答)

1  債務者の主張事実中、池田友次郎、関登、斎藤吉治が債務者会社の取締役であることを否認し、その余を認める。

2  (取締役会決議の無効の主張)

債務者主張の取締役会に出席した池田友次郎、関登、斎藤吉治は、債務者会社の取締役ではないから、右取締役会の決議は取締役でない者が参加してなされたものとして無効である。

五、債権者の主張(四の(一)の23)に対する債務者の応答

(一)  (延期通知の無効の主張)

債権者主張の延期通知が、その主張のとおりなされたことは認めるが、これは、取締役会の決議を経ずなされたものであり、かつ、そのことを被告の全株主は知つていたのであるから、右延期通知は無効である。

(二)  (予備的主張―延期通知の撤回の主張)

仮に、右延期通知が有効であるとしても、代表取締役である債権者は、債務者会社の全株主が出席した本件総会において右延期通知を撤回した。

(三)  (延期決議の主張に対し)

債権者の主張事実を否認する。

六、債務者の主張(五の(一)、(二))に対する債権者の応答

(一)  (延期通知無効の主張に対し)

債権者主張の延期通知が、取締役会の決議を経ずなされたものであることを認め、このことを全株主が知つていたことを否認する。

(二)  (延期通知撤回の主張に対し)

債務者の主張事実を否認する。

七、証拠 ≪省略≫

理由

一、債権者の主張(一)については、当事者間に争がない。

二、そこで、債権者の主張(二)について判断する。

(一)  (取締役及び監査役の職務執行停止の仮処分について)

1  債権者の主張(二)の1並びに2の(1)及び(4)については、当事者間に争がない。

2  そこで、債権者主張の各決議が存在するかどうかにつき検討する。

(1) (本件株主総会の招集通知について)

(疎明―省略)を綜合すれば、昭和三六年一二月二五日、債務者会社の取締役会において、本件株主総会を翌三七年一月二六日に招集する旨の決議がなされたこと、債務者会社の取締役である渡辺幸雄は、従来から、債務者会社の代表取締役であつた債権者から、同人がなすべき会社代表行為中、株主総会の招集等、単に取締役会の決議を執行するだけのものについては、これを代表取締役関高市の名において代行することをまかされていたこと、及び右渡辺は、かかる事情からして、代表取締役関高市名議で、右取締役会の決議の趣旨に従い、本件株主総会の招集通知をなしたものであることが認められる。

右認定事実によれば、渡辺は債権者の従来からの委任関係に基き、同人の機関ないしは使者として、招集通知という業務を執行したものであり、結局、本件招集通知が、代表取締役関高市の意思に基かないものとはいい難いので、右招集通知は、適法なものというべきである。

(2) (招集延期の通知について)

a 債権者主張のとおり、本件株主総会について、招集延期の通知がなされたことは、当事者間に争がない。

b そこで、右延期通知が無効である旨の債務者の主張につき判断する。

債権者主張の招集延期通知は、次期の開催日を定めていないので、正確にいえば、招集の撤回であるが、この意味における招集の撤回が適法になされるためには、取締役会の決議に基き、代表取締役が各株主に対し招集撤回の通知をなし、右通知が各株主に、予定された総会開催期日の前に到達することが必要である。

従つて、もし、代表取締役が、取締役会の決議に基かず、一旦、適法になされた総会招集につき撤回通知をなしても、右撤回通知は適法なものということはできない。しかしながら、このような撤回通知が不適法であるからといつて、直ちに、それが無効なものであると即断することはできない。代表取締役が、取締役会の決議に基かず、撤回通知をなしたとしても、その撤回通知を受取つた株主としては、撤回が取締役会の決議を経由したか否か、つまり適法な撤回であるかどうかは容易に判別し難いから、適法な撤回通知としての外観――たとえば、通知の名義人が代表取締役となつていることなど――を具備する限り、適法な撤回があつたものと信ずるのが通常であろう。そうすると、かような撤回通知を、取締役会の決議がなかつたというだけで無効とすることは、右のように適法なものと信じた株主の利益を著るしく害することになるから、特段の事情がない限り、いわゆる外観主義の立場から、かような撤回通知も、不適法ではあるが有効なものと解するのを相当とする。

しかしながら、その会社の全株主が、当該撤回通知につき取締役会の決議がなかつたことを現に知つていた場合は、たとえ、撤回通知があつても、適法な撤回があつたものと信ずることはないのであるから、右に述べた所謂外観主義の原則を適用すべき理由は全くないものといわなければならない。従つて、このような場合における撤回通知は無効と解すべきである。

ところで、右延期通知が、取締役の決議が経ずなされたものであることは当事者間に争がない。

次に(疎明―省略)綜合すれば、本件株主総会当時、被告の株主は、疎乙第一五号証記載のとおり、合計二二名であり、その全員が右延期通知が取締役会の決議を経ずほしいままになされたものであることを知つていたことが認められる。

ちなみに、債権者は、篠田国市郎、福羅幸雄、池田猪市、舟木洋一、本橋八郎、本杉昭幸、小池敏雄、関勲、伊豆倉亮助、佐久間俊光の八名も債務者会社の株主であると主張するけれども、株券発行前の株式の譲渡は無効と解されるので、成立に争のない疎甲第八号証の1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、並びに同じく疎乙第一九号証によつて株券発行前の株式の譲受人と認められる右篠田外七名は、債務者会社の株主ではないといわなければならない。

(3) (延期決議について)

本件決議がなされた総会の開催状況は、後記(4)に認定するとおりであつて、右事実によれば、債務者主張の延期決議がなされたことを認めることはできない。

(4) (本件総会における決議の存在について)

(疎明―省略)を綜合すれば、次の事実が認められる。即ち、昭和三七年一月二六日午前一〇時ごろ、招集通知書で指定された東京都品川区北品川二丁目一六八番地所在の債務者会社本店の本件株主総会会場には、委任状を提出した東京ダイハツ株式会社(以下、東京ダイツという。)、山成豊、近田福雄(その所有株式数合計七、四〇〇株)を除く債務者会社の全株主(債権者外一八名)が参集したこと。債権者は、この際、前記篠田国市郎八名を株主であると主張し、これらの者をも引き連れて会場に臨み、全員参集後、その引き連れて来たもののうちの一人に、債権者が新らに作成持参した株主名簿(疎甲第一〇号証)を読み上げさせて株主の出席をとつたこと。その後、債務者会社の業務課長である有井兆彦が会社備附の正規の株主名簿(疎乙第一六号証)に基き、出席株主の確認を始めたところ、債権者及びその一派は、これを不満として怒号を発し、殊更、会場を混乱に導いた上、ほしいままに、「解散解散」と言いながら退場したこと、右退場前には、債権者は、総会の開会を宣していないこと、並びに、退場した債権者、関孝、及び、桜田紀一を除く残留株主一六名(その所有株式数二、九四〇株。なお、委任状を提出した株主を含めると、本件決議に参加した株主の有する株式数は、一〇、三四〇株となる。――東京ダイハツが債務者会社の六、〇〇〇株の株主であることについては後記3(2)参照)は、本件株主総会を開催することとし、債務者会社の定款第一二条により、社長事故ある場合として、株主たる取締役渡辺幸雄が議長となり、開会を宣した後、本件各決議をしたことが認められる。

右認定事実によれば、債権者その他退場した株主は自ら、総会における発言、議決の権利を放棄してほしいままに退場したものとみるべきであるが、仮に一歩譲つて、債務者会社の代表取締役である債務者が「解散解散」と叫んだことにより、総会開会前、総会延期の宣言がなされたものと評価しても、右延期宣言は、その文字どおりの効果を生じないものというべきである。けだし、総会当日においては、代表取締役といえども、独断で総会の延期をなすことは許されず、延期するか否かは、招集された総会にはかつて決すべきものだからである。

そうだとすれば、債務者ら三名の退場後、残留株主において、債務者会社の定款第一二条により、取締役渡辺幸雄を議長としてなした本件各決議は有効といわなければならない。

(5) (結論)

よつて、本件各決議は、適法に存在すると認める。

3  そこで、次に、右各決議は取消さるべきものであるとの債権者の主張((2)2(3)参照)につき判断する。

(1) 債務者会社の発行済株式の総数が一二、〇〇〇株であつたことは、当事者間に争がない。

(2) 前掲(疎明―省略)を綜合すれば、委任状を提出した株主を含め、本件株主総会における出席株主の有する株式数が合計一〇、三四〇株であつたことが認められる。

ちなみに、債権者は、東京ダイハツは、債務者会社の株主ではないと主張するけれども、(疎明―省略)によれば、右東京ダイハツは、昭和三四年七月二九日の債務者会社の新株発行の際、債務者会社の株式六、〇〇〇株を引受けて、その払込をしたことが認められ、又、右東京ダイハツと債権者との間に、東京ダイハツは、債務者が金三、〇〇〇、〇〇〇円を提供すれば、いつでも、右株式六、〇〇〇株を同人に譲渡する旨の約束があつたことは、債権者の全疎明その他本件全疎明によるも認めることができないので、右株式六、〇〇〇株の株主は、依然、東京ダイハツであるといわなければならない。

従つて、本件各決議の際、株主総会決議の定足数は満たされていたものというべきである。

(3) 従つて、この点に関する債権者の主張も理由がない。

4  (以上認定のとおり、本件各決議は適法に存在し、かつ、取消さるべきものでもないので、本件各決議の不存在又は、その取消を前提とする取締役及び監査役の職認執行停止に関する債権者の本件仮処分申請は理由がない。

(二)  (代表取締役の職務執行停止の仮処分について)

1  債権者の主張(二)の3の(1)及び(3)については、当事者間に争がない。

2  そこで、渡辺幸雄の地位についての債務者の主張(債務者の答弁(二)の3の(1)の主張)につき判断するのに、池田友次郎、関登、斎藤吉治が債務者会社の取締役である点を除き、他はすべて当事者間に争がなく、他方、前記(一)の2、において認定したとおり、右池田ら三名を債務者会社の取締役に選任した株主総会の決議は適法に存在するから、右三名が加わつてなした債務者主張の取締役会の決議も又有効といわなければならない。

従つて、渡辺幸雄は、適法な債務者会社の取締役会によつて、同会社の代表取締役に選任されたものというべきである。

3  よつて、渡辺幸雄が債務者会社の代表取締役でないことを前提とする、代表取締役の職務執行停止に関する債権者の本件仮処分申請は理由がない。

三、以上説示のとおり、債務者等の異議申立は理由があるので前記仮処分決定を取消し、本件仮処分申請を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第七五六条の二、第一九六条を、各適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 伊 東 秀 郎

裁判官 武 藤 春 光

裁判官 宍 戸 達 徳

別紙目録

本案判決確定に至るまで、債務者渡辺幸雄は、債務者品川ダイハツ株式会社の代表取締役の、債務者関登、同斎藤吉治は、右債務者会社の取締役の、債務者有井兆彦、同作田康雄は、右債務者会社の監査役の各職務をそれぞれ執行してはならない。

右停止期間中、代表取締役の職務を行わしめるため

東京都中央区日本橋兜町一の八、日証館六階六〇二

弁護士 小 田 久 蔵

を、

取締役の職務を行わしめるため、

同都渋谷区隠田一の四、法制学会ビル

弁護士 入 江 正 男

同都中央区日本橋兜町一の八、日証館六階六〇二 小田法律事務所内

弁護士 椎 原 国 隆

を、

監査役の職務を行わしめるため、

同都千代田区丸の内三の二、三菱二一号館二〇三号

弁護士 今 井 忠 男

を、それぞれ職務代行者に適任する。

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